「王子殿下はまたお店にいらっしゃったんですか? こう頻繁に時間を作って来るのは大変でしょう? 無理をしたら身体に障りますよ」
 なんだかんだネル君はエードリヒ様のことを心配しているようだ。
 エードリヒ様はネル君の気遣いに首を横に振る。

「心配無用。私だって日頃の息抜きは必要だからな」
「息抜きなら別の場所で、それこそ自然豊かな王宮の庭園ですればいいの。ここは繁盛しているお店の厨房なので慌ただしいですし、落ち着かないでしょ?」
「私は厨房にいるのが好きなんだ」
「へえ。だったら王宮の厨房にでも足を運べばいいと思います。その方が移動する距離も短いし、休憩時間も有効に使える」
「私が王宮の厨房に足を運べば宮廷料理人が萎縮して美味しい料理を作れなくなってしまう。だがシュゼットは手放しで喜んでくれる」
「…………ああ言えばこう言いますね」


 ネル君がジトッとした目で爽やかな笑みを浮かべるエードリヒ様を見る。
 それからむうっと頬を膨らませると、視線をイベリスの花束へと向けた。