茜色の夕日がアル様の白金色の髪と造作の整った白い肌を照らす。瞳の紺青色を時折紫色に染め、より一層魅惑的にする。
 美しく微笑むアル様を想像した途端、私の心臓が大きく跳ねた。
 とくん、とくんと音を立てる胸に驚いて私は手を当てる。
 もしかして、私はアル様に恋をしている? いいえ、そんなはずない。

 だって、私はパティスリーで生計を立てて、独りで生きていくと決めているから。
 恋愛も結婚も懲り懲りなのに、今更そんな感情を抱いて何になるのか。
 不毛な時間を過ごして人生を無駄にはしたくない。だからこれが恋のはずがない。

 ――容姿端麗なアル様に魅了されているだけ……きっとそうだわ。
 なかなか落ち着かない心臓に戸惑っていると背後から声を掛けられる。


「店が順風満帆のようで何よりだ」
「ひゃあっ!?」
「やあ、シュゼット」

 後ろを振り返ると庶民に扮したエードリヒが手を挙げて挨拶をしてくる。
 お願いだから不意打ちで声を掛けるのはやめて欲しい。心臓に悪すぎる。
「エードリヒ様、ごきげんよう。今日も来てくれて嬉しいわ」

 再会して以降、エードリヒ様は定期的にパティスリーへ足を運んでくれるようになった。
 フィリップ様と婚約してからは距離を置かれてしまって会う機会もなくなった。偶然会えたとしても形式的な挨拶を交わすのみで口を利いてくれなかった。

 当時は無視されているようで悲しかったけれど、あれはフィリップ様に遠慮していたんだと思う。だからこうして昔のように接してくれるのは私にとって喜ばしいことだ。
 だって、頼れるお兄様のような彼がまた昔みたいに見守ってくれているんだもの。とても心強く感じる。