シュゼットが伯爵令息から婚約破棄されて三ヶ月以上経つ。当時は失恋を忘れるために仕事に邁進していたかもしれないが、そろそろ立ち直って新しい恋を探し始めてもおかしくない。
国内視察から戻ったエードリヒにとってこれは逃しがたい絶好の機会だろう。シュゼットがどう思っているのか分からないが、端から見ていると二人の雰囲気は良好だと言える。
……このままではシュゼットとエードリヒが結ばれてしまうかもしれない。
そんなの絶対に嫌だ。
俯いて悶々としているとシュゼットがうーんと伸びをしてから明るい調子で口を開く。
「エードリヒ様は相変わらず素敵な方だったわ。久しぶりに会えてとても楽しかった」
昔を懐かしむ表情をシュゼットは浮かべていたが、俯いていたネルはそれに気づかない。
言葉だけで情報を判断すればシュゼットがエードリヒに対して好感を持っているようにしか聞こえなかった。たちまち、ネルの心に不安と焦燥がずうんと重くのしかかる。
ネルは唇をきゅっと引き結ぶと切ない表情を浮かべた。
――距離を縮めようと努力したところで少年の姿をして騙している以上、僕に勝ち目がないことくらい分かってる。だけど…………諦めたくない。
眉間に皺を寄せるネルは目を閉じて長い睫毛を震わせる。
「どうしたの? 元気がないわね?」
シュゼットはネルを覗き込むようにして尋ねてきた。



