シュゼットはネルに対して好意を示してくれている。お菓子を手ずから食べさせてくれたり、抱き締めてくれたり、何かと可愛がって甘やかしてくれる。
 けれどそれは、純粋にネルを少年だと思っているからで……。
 見た目は少年なのに中身が大人と分かれば、気持ち悪がって拒絶するに違いない。騙されたと怒り悲しみ、最終的にシュゼットの心は傷つくだろう。

 エードリヒはそのことについて指摘している。そして彼女が傷つく前に手を引けと言っているのだ。
 エードリヒは微笑みを絶やさないが、纏っている空気から殺伐としたものがひしひしと伝わってくる。

 ネルは俯くとぎゅっと拳に力を込めた。

「アル殿、シュゼットは既に婚約者に裏切られて傷ついているんだ。これ以上あの子を絶望という奈落へと突き落とさないでもらえるか?」
「……たら……に……す」
「すまない、聞こえなかった。何と言ったんだ?」

 俯いたままネルがぽそぽそと呟くのでエードリヒが聞き返す。
 するとネルは顔を上げて今度はよく通るはっきりとした声で言った。