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 イートインスペースへエードリヒを案内したネルは腕を組んで椅子に座り、仏頂面で彼を睨めつけていた。
 鋭い視線を向けるネルに対してエードリヒは涼しい顔をしている。二人の間には沈黙が流れていた……とはいっても、程なくしてエードリヒに破られる。
「熱心に見つめてくれるな。残念だが私に男の趣味はない」
「僕にもそんな趣味はありません!」
 冗談を言われてさらにネルは渋面になった。やがて、不満と一緒に肺から空気を吐き出すと額に手を当てた。
「まず伺いたい。どうしてあなたがここにいるんですか? 首都へ戻ってきたことは知っていましたけど、お店に来る必要性なんてないのでは?」
 さっさと王宮へ帰れと言うようにネルが目を眇めるとエードリヒはテーブルの上に両肘をついて手を重ね、その上に顎をのせた。

「訊きたいのは私も同じだ。どうしてシュゼットの店の手伝いを子供の姿でしているのか教えてもらえるだろうか――まほろば島のアル殿」
 うっとネルは言葉を詰まらせる。
 やはり気づかれていたのか、とネルは一瞬ばつの悪い顔をした。
 しかしエードリヒはメルゼス国の王子。こちらの事情が国王陛下や宰相から情報共有されていてもおかしくない。
 にんまり笑顔のエードリヒにまんまとはめられたと自覚したネルはさらに表情を歪めると低い声で言った。