小さい頃からエードリヒ様は二人きりになると私のことをお姫様として扱ってくれていた。昔はキスの挨拶と一緒に『私だけの可愛い姫』なんて気取った言葉を口にしてくれたものだ。
 当時の私は塔に閉じ込められたお姫様が王子様に助け出されるお話にはまっていて、王子様が初めてお姫様に会って、彼女の手の甲にキスをするシーンをとても気にいっていた。

 エードリヒ様に会う度にその話をしていたものだから、彼は私に手の甲にキスをして挨拶をしてくれるようになった。

 ――社交界デビューしてからはフィリップ様との婚約もあったし、顔を合わせても普通の挨拶を交わすだけになった。昔みたいに挨拶をされるのは童心に帰った気がするわ。
 エードリヒ様が昔と変わらず私に親しみを持ってくれていることに喜んでいると、横から声が聞こえてきた。


「…………一体、何をしているんです?」