甘くて優しい青春恋物語 ~一途なプレイボーイはワルい男へ方向転換?~

「私ちょっとお手洗い行ってくるっ!」

「あっ、杏ちゃんっ……!」

 呼び止める空音の声を無視したまま、乾の顔を見ないように教室を飛び出す。

 見てしまったらきっと……今よりも顔が、真っ赤になってしまいそうだったから。



 一旦頭を冷やそうと、人気の少ない非常階段の裏ではーっと息を吐く。

 五分くらいここに居たからか、さっきよりも心臓のうるささは落ち着いていた。

 ……そろそろ戻んなきゃいけないよね、ホームルーム始まるだろうし。

 でも乾が居るって考えたら、戻りたくないな……。

 嫌だって言うわけじゃない。その逆で、恥ずかしいからこそ会いたくない。

 まだ完全に熱が冷めたわけじゃないから、今戻ったところで再発するだけだろう。

「……ここに居たんだ、杏。」

 けど、そんな気持ちを知らずに来るのが乾っていう男だ。

 いつの間にか来ていたのか知らないけど、背後から乾の心配を含ませた声が聞こえる。

 そのせいなのか、振り向きたくないっていう気持ちと、わざわざ来てくれたんだっていう気持ちが生まれた。