「……杏、これはどーゆー状況で」

「見て分かるでしょ! あんたが逃げないようにしてるの!」

「うん、それは分かるんだけどね……。」

「だったら黙ってて!」

 私は今、恋人である乾を壁ドンしている。

 でも乾は私よりも背が高いから、腕を壁に押し付けているだけなんだけど。

 それでも動きは封じられると考えた為、その状況のまま会話をしている。

 ここは誰も近付かない非常階段の裏。しかも薄暗いから、乾を責めるのにはちょうどいい。

 私が乾をここまで連れてきたのは、その為だから。

「乾! あんたは自分が何をしたか分かってんの!?」

「……それは、さっきの事?」

「逆に何があるって言うの!」

 私が怒ってるのは、さっきの事だけ!

 本当は乾と話すのは気まずくて、助けてもらった後はお礼だけ言って逃げようとした。

 けど、できなかった。体が勝手に動いていた。

 ……乾が、馬鹿な事したから。

「私のことなんか、無視しとけば良かったのに……っ、どうして助けてくれたのっ……!」