だから、ワルい男をしてる乾は……私の好きな、乾じゃない。

「はな、して。」

「無理だ、って言ったら?」

「っ、いいから離してよっ!」

「……っ。」

 乾のキスを拒否し、その場に立つ。

 私が泣いていると気付いたのは、その数秒後。

 頬に伝う生温い雫が手の甲に落ちた時だった。

 どうして泣いているのかなんて、分からない。

 乾のキスが嫌なわけじゃない、ただ今の乾は受け入れられなかっただけ……それだけ、だった。

 それだけなのに、ここまで嫌なのは普段の乾が好きすぎるからだろう。

 私は自分でも気付かない内に、乾をもっと好きになっていたらしい。

 はっと我に返った私は自分が何を言ってしまったのかを理解して、謝ろうと口を開いた。

 けど……できなかった。

「……ごめん、やりすぎた。」

 ぎゅっと心臓が掴まれたように鈍く痛む。

 乾がそんな、苦しそうな表情をする事なんてないのに。

 原因は私にあるんだから、乾が謝らなくても良いのに。

 それすらも口にできなくて、私は何も言えないまま空き教室を飛び出した。