ドアの残像は完全にお母さんたちがいなくなったことを示していた。ほ、ほんとに行っちゃった。


必死に作り笑いを浮かべながら後ろを振り向く。


後ろにいるのは今世紀最高と言われるアイドル。しかもいつもはクールなくせになぜかちょっとだけ笑顔を浮かべて。


王子様スマイルなんかじゃなくって、逆だけど。


ワルーイ男って感じの唇の端をちょっとだけあげてるような、笑み。

でもそれがすっごく似合うのは、この人だけなんだろう。


理乃のピアスがキラリと光った。


「覚悟してて、紗羅」

「……なにを?」

「んー、秘密」


そう言って私の頭をくしゃっと撫でた理乃。な、なにして。


真っ赤になる私の顔を見てまた笑うこの男。

真っ黒すぎて、怖くなってくるほどの黒髪と吸い込まれそうになる黒目。

私はもう元の生活には戻れないことを物語っていた。