茉白がキョトンとして眺めていると、運転席から姿を現したのは遙斗だった。

「お待たせ。」

「あれ?雪村専務が運転して来たんですか?」

「そうだけど?」
茉白の質問に、遙斗は不思議そうな顔をした。

「米良さんは…?」

「いないけど。」

「え!?」
当然米良もいると思っていた茉白は驚いた声を出す。

「二人きりはまずかった?」

「え…いえ!ぜ、全然、私は…ゆ、雪村専務こそ…」
一瞬にして、茉白の肩に力が入る。

「俺も全然。とりあえず乗って。」
遙斗は笑って言った。

(…結果的にお父さんに嘘ついたみたいになっちゃった…)

「とくに店は決めてないんだけど、何か食べたいものある?」

「え、えっと…」

「また眉が八の字になってるな。」

遙斗が笑って茉白の緊張を指摘すると、茉白はパッと眉を押さえた。

「す、すみません…がんばります…」
茉白の心臓は落ち着かない音をたてつづける。

「頑張らなくていいけど、食べたいものは?」

「あの…前に連れて行っていただいた居酒屋さん、がいい…です。」

「そんなにキレイな格好なのに?」
ナチュラルに褒める遙斗に、茉白は赤くなる。

「ちょっと不本意だけど、真嶋さんが落ち着くならあそこにしようか。」


しばらくして、茉白は二人きりの車内にも少しだけ慣れてきた。

「雪村専務って運転されるんですね…。」

「いつも米良が運転してるからイメージに無い?」

「はい、正直…」

「仕事の時は対外的な事もあるから運転しないけど、プライベートではよく運転してるよ。」

(……じゃあ…今はプライベート…?)
茉白の心臓がトクンと脈打つ。

「真嶋さんも運転するんだよね?この前、車で傘を届けてくれたって米良に聞いた。」

「あ、はい…運転は結構好きです。私は逆にほとんど仕事でしか乗らないですけど。」

「今運転してみる?」

「え!無理です!こんな高そうな車!」

「冗談だよ。そんな緊張してたら即事故りそう。」
遙斗は笑って言った。

「あ、この曲…私の好きな曲です。」
茉白が車内に流れる音楽に反応する。

「この曲が使われてる映画は観た?」
「はい。っていうか映画がきっかけで曲も好きになって…」

茉白がだんだんリラックスした様子を見せるようになると、遙斗も安心したように口元を綻ばせた。