米良の運転する高級車で連れてこられたのはごくごく庶民的な雰囲気の居酒屋の個室だった。
部屋の外からは乾杯のグラスがぶつかる音やガヤガヤとした宴会の声、接客をする店員の声が聞こえてくる。

「こういうお店とか来るんですね。」
茉白が言った。

「何?高級フレンチでも行くと思った?」
遙斗が言った。

「いえ、そういうわけではないんですけど…いや、あるかな…なんていうか、お二人の高そうなスーツとのギャップがすごいなぁっ、と、思ったんですけど…私はそもそも高級店に行ける服装ではないので…えっと、こういう方が落ち着きます。」

(…って言ってもこの二人と一緒だと全然落ち着かないけど…)

茉白は気を落ち着かせようと、飲み物を口に運んだ。

「立場上、高い店にもよく行くけど」

(やっぱりそうなんだ)

「米良と二人の時はこういう店が多い。俺も普通に、こういうところの方が落ち着く。」

「私は専務と違って庶民ですしね。」
米良がにっこり笑って言った。

「サラッと嘘つくなよ。いつもいつも胡散臭い笑顔振り撒きやがって…」

(嘘なんだ…)
茉白はどう反応すればいいのかわからなかった。

「お二人は仲が良さそうなんですけど…えっと…」

「高校大学の先輩後輩。米良が俺の一個下。」
遙斗が茉白の疑問を察して答えた。

「えっ!!」
茉白が驚いた声を出した。
「米良さんの方が年上かと思ってました…」

「遙斗は歳のわりに子供っぽいからね。」
「米良はオッサン臭くて老け顔だからな。」

言われ慣れているのか、二人同時に言った。

———ふふっ

茉白が思わず笑ってしまったのを見て、遙斗は少しホッとしたような顔で小さく笑った。