「じゃあ、シャルドンの商談行ってきます!17:00には戻るから。」

そう言って茉白は会社を出て、営業先に向かった。

シャルドンとは正式名称シャルドンエトワールグループ。
アパレルや雑貨の店舗を全国に展開したり自社ブランドも販売する大手企業だ。

(シャルドンの樫原(かしはら)さん辞めちゃったんだよね。新しいバイヤーさんとは今日が初商談か。樫原さん、話しやすかったのになぁ…)

大規模なチェーンを抱える会社の商談では雑貨部門やコスメ部門などの商品ジャンル毎に担当バイヤーが決まっていて、メーカーの営業は担当バイヤーと商談をする。
シャルドンの雑貨部門は、最近引き継ぎの挨拶もなく突然樫原バイヤーが辞めてしまった。
よほど急なことだったのか、今日のアポイントも担当バイヤーの名前は教えられず“雑貨部門バイヤー”とのアポイントとなっていた。

(どんな人だろう。知ってる人だといいなぁ…うちの商品の雰囲気が好きな人だともっといいな…)



(え!?)

シャルドン本社の商談ルームで茉白は目の前の人物に目を丸くした。

(なんでこの人が…)

茉白の目の前に現れたのは、シャルドンエトワールグループの専務であり社長の息子である雪村(ゆきむら) 遙斗(はると)だった。
遙斗は20代半ばからシャルドンの経営に関わっている。
コスメやアパレルでヒット商品の企画に(たずさ)わり、売り上げを伸ばして店舗数も拡大した実力者だ。

(34歳にして、社長目前といわれてる人…)


「いつまでそうやって突っ立ってるんですか?」