「さっき…ここに来た時は全部おしまいだって思ってたのに…今はこんなに幸せで…やっぱり頭が上手く整理できません…」
遙斗の腕の中で茉白が言った。

「雪村専務に—」
「俺の名前は専務じゃないって、この前教えたはずだけど?」

「…遙斗…さんに出会ってから、いろんなことが上手くいき始めて、考え方も変わって…世界がキラキラして…魔法…みたいです…」
茉白が遙斗にギュッと抱きついて言うと、遙斗は茉白の頭を撫でた。

「魔法なんかじゃなくて、全部茉白が自分で手に入れたものだ。」


「ところで…」

「ん?」

「どうして“クロ”なんですか?」
茉白はあのSNSアカウントのことを聞いてみた。

「………」
遙斗が珍しく答えたくなさそうに沈黙する。

茉白は遙斗の顔を見上げた。

「“黙られると余計気になる”…です。」

「……時計(クロック)ワニ(クロコダイル)
遙斗がボソッと言った。

「え…!?」

「………」
遙斗が照れ臭そうな顔をする。

(商品化も楽しみにしてくれてたし…)

「ワニ…そんなに気に入ってたんですか…?」

「…別に」
今度は照れ臭さを誤魔化すような、不機嫌そうな声で言った。

(あの雪村専務が…かわいすぎる…)

「私が社長になったら、ワニの商品いっぱい企画しますね!」
茉白はいたずらっぽく微笑んだ。

「またあのワニの絵が見られると思うと、涙が出るほど嬉しいよ。」

茉白と遙斗は幸せそうに笑い合った。
これからずっと解けない魔法にかけられて。