遙斗が車を停めたのは遙斗の住むマンションの駐車場だった。

茉白を車から下ろすと、指を絡めるように手をつないだままエレベーターに乗り込む。
茉白はドキドキと落ち着かず、まともに遙斗の方を見られずにいた。
そんな茉白を遙斗は時折愛おしそうにみつめた。

遙斗の部屋のフロアに下りた瞬間、遙斗が茉白を抱き寄せてキスをする。

「だ、だめです…」

「このフロア、俺しか住んでないから大丈夫だよ。」

「…そ、そういう問題じゃ…」

「じゃあどういう問題?」
遙斗は不敵さを含んだ笑みを浮かべる。

「…いじわる…です…」
茉白は眉を八の字にして抗議にならない抗議をした。


高層階にある遙斗の部屋から見る夜景は、この夜を現実から遠ざける。


(…今夜だけ…)


——— 俺は誰かの思い出になるためにいるわけじゃないよ


(………)


遙斗さんの瞳の色
遙斗さんの息づかい
遙斗さんの匂い


「茉白」

…声


茉白は遙斗の熱を身体に刻むように目を閉じた。



深夜3時

茉白はまだ暗い外の景色を見ながら、元々着ていた自分の服に袖を通した。
ずっとアパレルショップの袋に入っていたのに不思議と遙斗の匂いがしたような気がして、胸がキュンと切ない音を鳴らす。
音を立てないように注意を払い、遙斗の部屋を後にしてタクシーに乗り込む。

(魔法が解けた気分…)

先程から止まらない涙を拭いながら、茉白はクスッと笑った。

(宝物みたいな思い出が増えたんだから、頑張らなきゃ…)


朝5時

目を覚ました遙斗は茉白がいないことには驚かず、予想通りという表情で溜息を()くと、シャツを羽織りどこかに電話をかけた。

「あ、新婚旅行中に悪いな。ちょっと頼みがあるんだけど。」

電話の向こうからは不機嫌そうな米良の声が聞こえてくる。