気づくと茉白は、遙斗の胸の中で堰を切ったように泣いていた。

「ごめ…なさ…ジャケットが…」

「余計なことは気にしなくていい」
遙斗は茉白の頭を撫でて優しく言った。

「…きょお…」

「うん?」

「…莉子ちゃんが辞めるって…言って…」
茉白はまとまらない言葉でポツリポツリと話し始めた。

「佐藤…さんも辞めちゃうんです…」
「うん」
遙斗には佐藤が誰だかわからないはずだが、茉白の言葉を相槌をうちながら静かに聞いた。

「莉子ちゃんのことは…妹みたいに思ってて…でもいろいろ教えてもらって…」
「うん。莉子先生だもんな。」
茉白は胸の中で小さく頷いた。

「影…沼さんは…数字が全てって言って…」
「…うん」

「Amselの人は…企画書、見てもくれなくて…」
「うん」

「…わたしの絵じゃ…何もわからないって…」
「それはちょっとAmselに同情するけど…」

「………」
「うそうそ」

「……いままで大事にしてきたことが…全部…だめって言われて…」
「うん」

「…でもたしかに数字は…伸びてて…でもそれ…もよくわからなくて…」
「…うん」

「父は…」
茉白が言葉を詰まらせる。

「お父さんが?」

「…父は…LOSKAは影沼さんが継ぐって…」
茉白の手が遙斗のジャケットをギュと強く掴む。

「……どこかで、LOSKAは私が継ぐって…思ってたんです…娘だからとか、そんなんじゃなくて…LOSKAが好きで、誰よりも努力してきたつもりだから…でも…そんなの……わたしの…思い込みだったみたいで…」
そこまで言うと、茉白は言葉を失くしてまた泣き出した。

「……そっか」

遙斗はしばらくそうして茉白を抱きしめながら、時々宥めるように頭を撫でた。