「その絵は?」

遙斗が茉白の手元にある手描きのイラストについて質問した。

「あ、これは持ってくる予定じゃなかったんですけど紛れちゃってたみたいで…」
茉白はどこかバツが悪そうに説明する。

「一応、私が描いたこのポーチのアイデアスケッチです…」

茉白は恥ずかしそうに遙斗にスケッチを見せた。
遙斗は紙を受け取ると米良にも見えるようにしながら、真剣な表情でじっくりと見た。

「この絵…」

「は、はいっ」

「ド下手だな。」

「………」

遙斗のあまりの言い草に茉白は一瞬ポカンとしたが、絵心が無いことは自覚しているので返す言葉が見つからない。

「…すみません…だから持ってくるつもりじゃなかったんですけど…」

茉白は資料の説明の時とは別人のようにモゴモゴと小さな声で言った。

「でも熱意は伝わる。」

「え…」

「絵が下手な分、説明の文章に熱を感じる。この時点でアイスクリーム形のミラーが付いてるとか、裏地がサクランボの柄とかポケットが何個付いてるとかディテールが決まってて最終形に近いのがすごいな。」

遙斗の口調は相変わらず淡々としているが、感心しているのがわかる。

「は、はい!えっとミラーと裏地はこだわりポイントで、バニティの方はフタにミラーが付いてるからアイスの形のミラーは付けられないなって思って、でも開けた時にかわいい!って思って欲しくてサクランボの柄にしたんです!柄が入ってると汚れも目立ちにくいですし。」
茉白がまた饒舌になる。

「この絵じゃ全然わかんないけどな。」

「う…なので、弊社の優秀なデザイナーと優秀な取引工場が私の頭の中を見事に具現化してくれたんです…。みんなの腕が確かなのは私のこの絵が保証します…」

米良は静かに笑っている。

「ふーん…」

遙斗は何かを考えるように、ポーチのサンプルとアイデアスケッチを再びじっくり眺めた。

「決めた。」
遙斗が口を開いた。