茉白(ましろ)さん、このメイクポーチって値段いくらでしたっけ?」

「2,350円。ちなみに税別だから間違えないでね。」

「さすが〜」

花柄のメイクポーチの値段を即座に答えたのは真嶋(ましま) 茉白(ましろ)・28歳。
株式会社LOSKA(ロスカ)の企画営業をしている。
ダークブラウンのミディアムロングをふんわりとまとめた髪型で、服装は営業にも行ける程度の堅すぎず柔らかすぎずのオフィスカジュアルだ。

ここ株式会社LOSKAは女性向けのポーチやステーショナリー、傘などの雑貨を作っているメーカーで、社員数は20名程度の業界では比較的規模の小さな会社だ。

「茉白さんて、もしかして全商品の価格暗記してるんですか?」

後輩社員の塩沢(しおざわ) 莉子(りこ)が感心を込めて言った。莉子は茉白の2年後輩の26歳で茉白よりも少しフェミニンな見た目をしている。

「んー、さすがに全部ってことは無いけど、この2〜3年で発売したものは覚えてるかな。」

「えーすごーい!」

「すごいって…莉子ちゃんだってお客さんに聞かれるでしょ?すぐ答えられたほうがいいじゃない。」

「まあそうなんですけどね〜。柄も形もたくさんあって覚えられないですよー。さっすが主任!私はカタログ見る派です!」

商品カタログで確認するより前に茉白に値段を聞いた莉子は悪びれずに言う。
茉白は呆れたように眉を下げて小さな溜息を()いたが、人懐っこい莉子はなんとなく憎めないかわいい後輩だ。