女の子たちの輪の中心にいるのは───犬飼くんだ。
そこにいつもの無表情はなく、少しだけ微笑みを見せている。
そんな犬飼くんに周囲は驚いていた。
それも仕方がないことだろう。
これまで無愛想で素っ気ないと言われていた学校イチのモテ男子が今日は笑っているんだ。
そんな犬飼くんを見て私はほっとし、それと同時に胸の中にモヤッとした感情が生まれた。
沢山の女の子たちに囲まれた犬飼くんをこれ以上見れなくて、私は目を逸らした。
どうしたんだろう……私。
私は少し戸惑いながら杏月と食堂に入った。
「ゆい、さっき犬飼くんのこと見てたね」
ご飯を口に含みながら杏月がいたずらに言う。
私はその言葉にむせてしまった。
「み、見てたけど……それが何?」
動揺を悟られないように私はすました顔で訊く。
「ゆいは犬飼くんのこと、どう思ってるの?」
杏月にそう訊かれて、私の心臓がドクンッと鼓動した。
犬飼くんのことをどう思っているか……?
そんなこと、今まで考えもしなかった。
「……分からない。けど、これからもそばにいてほしいとは思う」
私がそう言うと、杏月が「きゃっ♡」と黄色い悲鳴を上げて顔を赤らめた。



