「空、お昼は何食べる?」

「……」
ミコトのあの言葉の意味は何だったんだろう。

「空?」

私はそこでようやく声を掛けられたことに気づいた。

「ごめん、何?」

「お昼は何食べる? って聞いたんだよ」

相変わらず真っ黒な瞳で聞いてくる。
私たちは今ショッピングモールにデートに来ていた。

操られてるのに、それを利用している自分に
嫌悪感を抱く。

「なんでもいいよ」

わたしはにっこり笑って見せた。

デートが終わって帰ろうとしていると女性の
叫び声が聞こえた。

「きゃぁぁぁぁっ!! 人が刺されたわ!!」

女性の近くにお腹に刃物が刺さった
男性が倒れていた。
血が止めどなく流れている。

そのとき、脳内に白いシャツが血に染まり、
倒れている高校生の姿が浮かんだ。

あれ?わたしこの光景知ってる?

そして、その高校生の顔に見覚えがあった。

「嘘」

ミコトだった。

本名は菅野(みこと)

私の幼馴染で恋人同士だった。

彼は通り魔に刺されて命を落とした。

何で忘れてたんだろう。

「空、逃げよう!」

優希が焦ったように手を差し伸べてくる。

「ごめん、私は一緒に行けない」

「え?」

「好きな人がいるから」

私の初恋の人。
私の大好きな人。
私が一番愛した人。

待ってて、今行くから。

私はバスの停留所に向かって走った。