向かうは、入り口とは真逆。


従業員用の裏口なのだろうか。

鉄の扉が開く音がすると、蒸し暑い風が肌にまとわりついた。


すっかり夜になった街の喧騒が耳に届く。


大声を出せば助かるかもしれない。


けれど。

そんなことをする間もなく、すぐ脇に止めてあった車に押し込められる。


「……きゃっ」


奥に座っていた人物に体が触れて。


顔を上げると、鋭い瞳が私を見ていた。


バクン──と、心臓がひとつ大きく鳴る。


闇の中でもわかる、海の底のような深い碧い色をした瞳。



息をするのも忘れ、吸い寄せられるように見つめる私に。


彼は薄い唇を開き、言った。





「──今からオマエを誘拐する」