決して乗り心地の悪くない車は、思いのほか安全運転だった。
私はあのあと、拉致した男と手錠でつながれ。
アイマスクも装着され、どこに向かって走っているかはわからない。
この車に乗っている人数も不明だし、彼らも必要以外話すこともなく、様子を伺い知ることはできない。
私も抵抗をすることなく、恐怖心に支配されながらも大人しく車に揺られていた。
『無駄に騒がなければ、命を取られることはない』
万一のときのため、昔から言い聞かされてきたこと。
目的はきっとお金。
お金を手に入れるまでは、人質は大切に扱われるはず。
「ここでいいな」
その声は、運転席の方から聞こえてきた。
そのあと曲がり角とは違うような急ハンドルが切られ、車が停止する。