どんよりした雨模様。

窓ガラスに叩きつける雨が先程よりも増して強くなってくる。

花はびしょ濡れになりながら、やっとの思いで家に辿り着き、シャワーを浴びて、今ホッとひと息ついたところだ。

大学を卒業し、夢だった保育園の保育士として働き始めて3ヶ月。

今日も朝からバタバタで息つく間もなく、気が付けば定時を1時間も過ぎていた。

思っていた以上に保育士の仕事は忙しく、
お昼でさえ落ち着いて食べる時間もないくらいだ。

3年前に入籍した旦那様は相も変わらず
過保護で、花を優しく真綿に包むかのように大事にしてくれる。

一橋 花(23歳)

腰まで伸びた髪をタオルで乾かしながら、
振り続く雨を不安気に見つめていた。

TVをつければ、
花の住む温泉街も、昨日から梅雨に入ったとニュースの天気予報士が話している。

昼過ぎに旦那様から貰ったメールには、

『駅弁を買って帰るからお楽しみに。』

とだけ書かれていた。

花の旦那様
一橋 柊生(30歳)

結婚しても変わらずの人気と、
益々の男前度を上げつつ、今や実家の旅館のみならず、地方の経営に伸び悩む旅館やホテルの再建の為にコンサルティング会社を立ち上げた。

講演会や司会業などの仕事も一手に引き受け、全国を駆け巡る忙しい日々を送っている。

今日は、旅館組合主催のシンポジウムの司会を任され、昨日から泊まりで新幹線で2時間ほどかかる都会に出張中だ。

花は、高層マンションのガラス張りの窓に張り付き、降りしきる雨をただ、眺め続けている。

こんなに豪雨になる事を知っていたら、
今夜も一泊して、明日帰って来てと伝えれば良かった、と後悔ひとしきり。

はぁーと深いため息を吐く。