それは、調味料も何もかも乏しいあの森の暮らしの貧しさを表しているのかもしれない。
 けれど――ああ――ああ――!

 クリスは、シチューをもうひと匙掬った。
 口に含んで、噛んで、飲み込んで、もう一口。

 間違いはなかった。
 このシチューは、あの頃たべたシチューと、材料が違う、だから味が違うのは当然で、けれど、そうではなかった。
 このシチューは、エリスティナの作ってくれたそれと、まったく同じ味をしていた。

 矛盾だろうか、いいや、そうではない。
 心を砕いて作られた料理というだけではない。これは、クリスに食べさせるために作られたものだった。
 番が、ではなく、エリナが、正体のわからぬ「クー」のために作ったシチュー。

 エリスティナが作ったシチューと、同じ心で作られたシチュー。
 それは、目の前が、開くような感覚だった。
 暗かった視界が明るくなって、胃の腑が満たされて、舌がぬくもりを取り戻す。