目を覚ましたクリスが最初に目にしたのは、エリスティナの魂の匂いのする女性の後ろ姿だった。ことこととシチューの煮込まれる香りが漂って、きて、それだけで腹がきゅうと鳴る。

 長いこと感じていなかった空腹が不思議だ。
 クリスは台所をくるくると動き回って食事の支度をしている女性をぼんやりと眺める。

 部屋は暖かかった。高価なものも何もない、質素な部屋だったが、全体的にやわらかな色でまとめられた調度は、いつかエリスティナと暮らしていた小屋を思い起こさせた。

 クリスが起き上がった気配に気づいたのだろう。
 振り返った赤毛の女性は、エリスティナのそれとよく似た、くるりと丸い緑の目をぱちぱちと瞬いた。