「何、貴様は女らしくないからな。
簪の一つももっとらんだろ?
せいぜい好いた男と出掛ける時に使えば良い」
憎まれ口を叩く芹沢さん。
いつもなら、怒っているのに。
今日は怒りの感情を抱けなかった。
「芹沢はんたら意地悪ねぇ。
ほんまはアキさんのこと大好きなんよ。
ウチのが好きやけどな」
余計なことを言うな、と芹沢さんに咎められながら梅さんはコロコロと笑う。
二人のやり取りを聞いて、胸が熱くなった。
僕を大事に思ってくれていることが痛いくらいに伝わってきたから。
黙って梅さんから簪を受け取って、顔を俯ける。
「アキはん?どないしたん?」
我慢していたのに。
泣かないように、ずっと踏みとどめていたのに。
芹沢さん達の、バカ…。
ポタ、と僕の手の甲に落ちる雫に梅さんは息を呑んだ。
「貴様は意外と泣き虫なんだな」
誰のせいだと思っているのか。
『…っ、うるさいですよ!』
僕は涙を袖で拭くと、芹沢さんをキッと睨む。
おかしい、いつの間にこの人達といる空間を大事だと思うようになっていたのか。
感情が過ぎて、失う恐怖に負けてしまう。
その証拠に、拭いても溢れる涙が頬を伝う。
芹沢さんはジッと僕の涙を眺めると頭を撫でた。
「…アキは娘みてぇだな。
俺と梅の子供にしてやろうか?」
その言葉に僕は、目を見開く。
叶わないと知っているのに。
『…っ』
嬉しい、と思ってしまったのだから。
僕のほうが年上だし、ありえないはずなんだけれどね。
「アキはんなら大歓迎やで」
手を広げて、朗らかに笑う梅さん。



