『あ、トシくん、おかえり!』

「…ただいま」


ぶっきらぼうに返すトシくんに、僕は懐かしい気分になった。


このやり取り、昔みたいだな。


十年前も稽古で疲れて帰ってきていたトシくんにこうやって声をかけていたものだ。


「私もいるんですけど」


ふくれっ面をして、トシくんの後ろからヒョコッと顔を出すのはソウ君だった。


『ソウ君、おかえり』

ニコリと微笑みかけたら、ソウ君は満足したらしく上がっていった。


『トシくんは上がらないの?』


玄関口に仁王立ちをして佇むトシくんは動く気配がなく。

夕餉作らなきゃ、と翻そうとした僕をトシくんは止めた。


「…待て、アキ、夕餉は要らねぇ」

『えっ?』


夕餉が要らない?!


『…僕、お役御免ってこと?』


僕のご飯、食べたくないってこと?!

ショックでガーンと固まっていたら、トシくんが慌てて弁解してきた。


「アンタの飯が食べたくないわけじゃない!

 今日はその、…島原へ行くんだ」


若干気まずそうに言うトシくんに僕は目を点にした。

別にそんな言い訳がましそうにしなくても良いいのに。