ソウ君の小姓に決定した後、トシくんが話を続けた。
「アキ、これからアンタにはここに務めてもらうが、注意がいくつかある」
『注意?』
真剣な顔で言うから、僕も少し顔を引き締める。
「そうだ。
1つ目は、屯所は女人禁制だということだ」
女、人、禁、制!
出たよ、王道の規則。
僕完全に駄目じゃない??
今は男装してるけど、バレたらやばくない?
『女人禁制…、風紀のためってこと?』
「まぁな、女中もできれば雇いたくない」
『…分かった』
辛うじて顔には出さないけど、内心汗をかいた。
どう足掻いても、性別の壁は乗り越えられないんだよなぁ。
もしも誰かに気付かれた、あるいは勘付かれた時を考えると恐ろしい、特にトシくんやソウ君。
気をつけなきゃ。
「2つ目は、壬生浪士組は芹沢鴨というもう一人の局長がいて、近藤派と芹沢派で分かれているということだ」
芹沢鴨…か。
聞いた瞬間、未来の流れが頭を巡った。
この人達の歴史は、ここから先が残酷で、重要なんだよね。
『対立しているの?』
白々しくも、知らない丁を装って質問をした。
ここには、芹沢派は一人もいない。
ということは、つまり、暮らす場所も分けている。
「あぁ、俺等は近藤さんについていくと決めているからな。
それにあの人のやり方は俺には理解できねぇんだ」
『…そうなんだ』
芹沢鴨といえば、酒豪で酔うと鉄扇を振り回し暴れるという噂を聞いた。
島原で芸子の髪を切ったり、気に食わない店に火を放ったり、店を脅して金を毟り取ったり、悪評が絶えないようだし。
芹沢鴨の影響で壬生浪士組の印象は大幅に低下しているのだろう。
トシくん達にとっては、さぞや迷惑千万、邪魔な存在なんだろうなぁ。
それは、看過できないよね。
手を掛けちゃうのも無理はない。
「芹沢派には近づかないよう、常に警戒しておけ」
『りょーかい』
僕だって間違っても、芹沢鴨には近づきたくないよ。
といっても、僕雑用係みたいなもんだし、下っ端の分際で関わる機会なんてないだろうけど。
軽く考える僕を察してか、全員が心配そうな目を向けてきたが気付かなかった。



