どうかした?と不思議に思っていたら、トシくんが咳払いをした。


「アキ…、アンタさっきお礼がしたいって言ったよな?」


トシくんに真剣な顔で尋ねられ、僕はコクコクと首を縦に振った。


『うん、お金なら幾らでも払…「そうじゃねぇ」』

 
途中で言葉を被せられ、目を丸くする。

トシくんは、僕の目を真っ直ぐに貫いて、言った。


「お礼の代わりにここで、住み込みで働いてくれないか?」

『…え、ここで?』


僕に、壬生浪士組の屯所で働けと?

…いずれ新撰組の剣士になっていく二人の側で、働く。

それは、光栄で、辛いことだと思った。

だって、彼等の未来は…。


いきなりの提案に困惑していたら、それまで黙っていたソウ君が説明をしてくれた。


「今、隊士集めてるんだけど、その人数が増えて食事を作ったり、家事をしてくれる人が足りてないんだよね」


『ふむふむ』


人手不足かぁ。

家事は手間がかかるし、地味に問題なんだろうな。


「アキさん、家事できたよね?
 ご飯とかよく作ってたし」


『…まぁ、そうだったね』


ソウ君、よく覚えてんなぁ。

そういえば、トシくんの家に居候していた時はソウ君もよく僕の作ったご飯を食べに来ていたっけ。

近所の人からも僕が作る料理は評判良かったんだよね。


蘇る記憶に、懐かしいな、と思った。


「僕達の世話を、手伝ってくれないかな?」


ソウ君とトシくんにジッと縋るように見つめられ、僕は数秒考えるとケロッと答えた。


『いいよ、職は探してたし』


家事なら僕の得意分野だ。

それで、お金を貰えるなら易い仕事だよね。

しかも、住み込みってことは寝る場所にも困らなくて済む。

二人は目を見開いて、びっくりしていた。


「あっさりだな」

「嫌じゃないの?」


どうやら僕が拒否すると思っていたらしい。

まぁ、住み込みになったら、自由度は低くなるけど。

僕は案外条件が良ければ受け入れる質だよ?


『んー、男所帯はむさ苦しいそうだけど、
 顔馴染みのいるところで働いた方が楽しそうじゃん』


素直にそう言ってニコッと笑ったら、二人は少し顔を赤くしていた。


でも、たのしみと不安は紙一重だった。


これから僕は、何もできずに、ただ彼らの行く末を見守らなければならないのだから。

この先が見えてしまう僕は、きっといつか、冷たい現実に苛まれ苦しむだろう。



ー…運命を知りながら変えることをしない無慈悲な僕を知ったら、彼らは僕を恨むだろうか?