いまはおたがいに縛られるものはなにもない。というよりか、心の枷がなくなった。愛や絆や信頼のまったく抱けない相手から婚約破棄をされ、心身ともに解放された。
 それは、二人とも不本意どころか歓迎すべきことだった。まあ、たしかに周囲には恥をかいたことになっているけれど。それでもわたしたちに非はなく、被害者だということは知れている。だから、そこはよしとしたい。
 
 とにかく、いまはおたがいに以前とは違う。

 おたがいの言動には注意を払わねばならない。

 一応、夫婦というだけであってほんとうは夫婦ではない。あくまでも偽装、というかふりにすぎない。

 クストディオにとってわたしは、ほんのわずかでも好意を抱くどころか、子どものときからの「憎むべき敵」、「戦うべきライバル」という存在。それ以上でも以下でもない。

 それを忘れず接しなければならない。

 勘違いしない為にも。