「あのクズ皇太子が、可愛い妹の元婚約者というだけでも虫唾が走る」

 お兄様のわが身を抱きしめる仕種に、おもわず笑ってしまった。

「カヨ。資金が必要なときにはいつでも言ってくれ。これは、父上と母上からの伝言だ。それから、クスト。カヨを頼む。これは、父上と母上とわたしからだ」
「エルネスト……。もちろんです。侯爵夫妻にくれぐれもよろしくお伝えください」
「ああ。カヨ、素敵な夫を困らせるなよ。状況が落ち着いたら、顔を見せてくれ」
「お兄様、ええ、ええ、かならず。お父様とお母様にお礼を伝えてください」

 お兄様は、現れたときと同様慌ただしく去って行った。


「カヨ、いいのか?」

 執務室内に静寂が戻ってきた。

 そのタイミングで、エドムンドとフェリペがお茶とクッキーを持って戻ってきた。

 二人は、気を利かせて席を外してくれていたのである。