冗談を返すだけの余裕があるふりをするのも大変だ。

 だが、彼は笑ってくれた。だから、おれも笑った。

 顔がひきつっていないことを祈りながら。

「その馬場にいる黒馬、どう思う?」

 笑いがおさまると、彼は馬場のひとつを顎で示した。

 振り返ってそちらを見ると、馬場内を黒馬がのんびり歩いている。

 陽光の下、精悍だがしなやかな肢体がキラキラと輝いている。

「うわぁっ! きれいな馬ですね。美しく気高く、なにより速そうだ」

 いまの状況も忘れ、本音を言っていた。

「おれの自慢の馬だ。それで? 用件を言え」

 彼も時間(とき)がもったいない、と思うタイプだ。

「共闘しませんか?」

 だから、そうストレートに申し出た。

 それから、おれたちの作戦を話した。