「国王は、驚いただろうね。それはそうだろう。車椅子のぼくが、彼の前にたちはだかってブロンズ像を振りかざしたのだから」

 クレメンテは、死者を鞭打つかのように嘲笑った。しかも、けたたましく笑いながら車椅子から立ち上がったのである。

 こちらに向って歩いてくる。

 恐れ入ったわ。

 車椅子じたい、周囲を欺いていたのね。

「偽装が大変だったよ。葡萄酒をぶちまけたりグラスや葡萄酒の瓶を割ったりしてね。何者かと争った挙句に殴られて死んだ、という形跡を作った。そして、さっさとお暇したわけ。容疑者はたくさんいる。そして、あの日は目撃者がいない。だれもがぼく以外の王子や宰相のことを疑う。ぼく以外の王子をね」

 クレメンテは、わたしの前までくるとにんまり笑った。