「哀れに死んだ国王は、王子の中では唯一ぼくだけ寝室に入れてくれた。ぼくの体が不自由な上に、従順でおとなしくて控えめだから無害だと思い込んでいた。あの夜もそうだった。が、あの夜は違ったことがあった。王宮内で悪質な風邪が流行っていて、仕事が出来ずに寝込んでいた者がいた。あのときは、侍女を始め国王の側にいるべき者たちがいなかった。そして、酔った国王は急に絡み始めた。ぼくと兄上のほんとうの父親について言及し始めた。とっさのことだった。気がついたら、酔った彼に近づいていた。そして、寝台の脇に置いてある小さなブロンズ像を握りしめていた。あっという間さ。人間の命なんてはかないものだ。つくづく思ったよ。国王(かれ)は、たった一度その小さなブロンズ像で頭を殴っただけでこと切れた」
「なんてことなの……」

 そうつぶやいた声は、さすがにショックを隠し切れなかった。