「名は……、すまない。失念してしまった」
「王子殿下、カタリーナ・ラバルですわ」

 お母様の実家のラバル伯爵家は、アルファーロ帝国建国時に伯爵の称号を与えられていまにいたる名家のひとつ。

「カタリーナと呼んでも? ああ、失礼。かけてくれ」

 やっと長椅子を勧めてくれたので、彼と見つめ合ったまま手前の長椅子に腰かけた。

「それで、アルファーロ帝国の外交官がなんの用だ? 今朝は、いろいろ立て込んでいる。正直、ほんのわずかな時間もムダにしたくない」

 それはそうでしょう。わたしと同じ空間にいたくないはずだし、なにより宰相暗殺の真偽を一刻もはやく確かめたいはず。