彼女は頭がキレる。さらに機転がきく。さらにさらに要領がいい。さらにさらにさらに、言葉が巧みで知識が豊富である。およそ非の打ちどころがない。

 しかし、しかしだ。料理や洗濯や掃除といった家事に関しては、驚くほど出来なさすぎる。

 もちろん、侯爵令嬢である彼女は、メイドや料理人たちがなんでもやってくれる。彼女は、なにもする必要はない。実際、なにもやってこなかったのだろう。だから、出来なくても仕方がない。

 残念ながら、彼女の場合はやったことがないとか、やり方を知らないというレベルではない。

 つまり、やったことがなかったりやり方を知らなくても、だれでもやればそれなりに出来るものだ。どれだけ下手くそで時間がかかったとしても。

 だが、彼女はそれすら出来ない。

 たとえ侯爵令嬢であっても皇女であっても、まったく出来ないというのはどうなのだろう。

 考えてみれば、彼女の母親、つまりセプルベタ侯爵夫人は、それはもうお淑やかで物腰のやわらかいレディである。家事は完璧で、メイドを雇う必要がないくらいだ。