セプルベタ侯爵領には、大街道が縦断している。それは皇都へ続き、皇都から西方地域の国へと続く。その大街道を使えば、隣国はすぐである。

 しかし、わたしたちは大街道を使わなかった。

 一応、隣国との国境には両国の国境警備隊が詰めている。とはいえ、いま両国は形だけの友好関係を築いている。警備隊も「ただそこにいるだけ」で、本気で取り締まっているわけではない。つまり、密輸出入や違法取引や人身売買や臓器売買といった違法行為に対する抑止力になっている程度である。

 案内人であるエドムンド・レンテリアは、大街道は使うつもりはないと言った。そして、さっさと馬首を山の方へと進めた。

 山といっても、丘を険しくした程度でたいしたことはない。その山に小型の馬車なら通れる道がある。

 この道は、地元民でもこの山の近くに住んでいる人たちが知っている程度。あるいは、両国のやり手の商人たち。

 彼らは、警備兵たちに賄賂、もとい心づけを渡すのをけちり、こういう脇道をを使用する場合が多々ある。

 わたしたちは、その道を進んであっという間にバラデス王国に入った。