「母親に疎まれ、父親からは顧みられず、おれたちはただ寂しい日々を送っていた。そんなときにやさしく接してくれたのが彼女だった。彼女が王宮にいた際、おれやヘルマンがクレメンテを抱き、三人で彼女のもとを訪れては、彼女が作ったクッキーやケーキを食べ、喋ったり遊んだりして楽しいひとときをすごした。虐めが苛烈をきわめて彼女が王宮にいられなくなったとき、おれたちは寂しさと心細さで泣いたものだ。王宮を抜けだし、彼女を捜しに行こうと計画を練ったこともあった。結局、幼いおれたちに出来ることはなにもなかったが。それからしばらく経った後、王宮の侍女か執事から、彼女は『男児を産んですぐにアルファーロ帝国に逃げて行った』と噂しているのをきいたというわけだ。それから、二十年以上のときを経て、おれたちは彼女がすごしたこの屋敷がまだだれの手にも渡っていないと情報を得た。調べさせたら、この屋敷はまだ王族が隠れ蓑に使っている名義のままになっていた。すぐにまったく違う名で購入したさ」

 アルマンドは、一息ついてから続ける。