わたしのことを顎でこき使おうとしているだけでなく、葡萄酒やおつまみまで強要するなんて。

 しかも「マンテールチーズ」って、西の地域にある国でしか生産されていないめずらしいチーズ。そんなチーズがここにあるわけないのに。

 それこそ、アルファーロ帝国の皇宮の厨房にもなかったわ。

「申し訳ない。『はぐれ王子』のおれには、いっさいの資金がない。いま生活出来ているのも、妻であるカヨの実家に援助してもらっているからだ。というわけで、ここには赤葡萄酒もいかなるチーズもない。そうだな。水はある。しかも、ここの井戸の水はまろやかでうまい」
「あなた、汲んできますわ」

 クストディオの嫌味攻撃にあわせ、裏口へと歩き始めた。