「さっと見たかぎりでは、こちらのバラ園には観賞用のバラしかないようですね」

 無知な宰相と店員との間に入ったのは、クストディオだった。彼は、見るに見かねて助け舟を出したのに違いない。

「そのようですね。観賞用のバラは、ローズティーには向いていないのです」

 わたしもまた、口をはさまずにはいられない。宰相と視線を合わせたまま続ける

「見た目を重視する為に、長いときをかけて品種改良が行われています。その結果、きれいであったり可愛くなったりと見た目はよくなりましたが、香りが薄れてしまったのです。ローズティーに使われるのは、このダマスクローズやガリガローズというバラの原種に近い品種なのです」

 言い終えると、店員さんに「そうよね?」とアイコンタクトをとった。すると、彼はうれしそうにうなずいた。

 目の端にエドムンドとフェリペがニヤニヤ笑っているのを認める。