「この手を離してよ」

 いまだ握られたままの右手首を見おろす。

「ああ、ああ。悪かったよ。がっしりした手首だから、おれの右手が筋肉痛になる」
「はあああああ? この手首のどこががっしりしているのよ。しかも筋肉痛? あなた、ほんとうに子どもね」

 やっと右手首が解放されたけれど、ジンジンと痛みが残っている。

 彼がこれほど力が強いとは、正直驚きである。

 鍛えているというようなことを言っていたけれど、まんざら嘘や誇張ではないのね。

 結局、わたしたちの怒鳴り合いに驚いたエドムンドとフェリペが主寝室に様子を見に来てくれたお蔭で、大ゲンカは中断された。

 ケンカの原因を知ったフェリペは、可愛そうなほど恐縮していた。