「あっ、いや、遅くにすまない」

 てっきりわたしの迅速すぎる対応をツッコんでくるかと思いきや、彼は意外にもそうはしなかった。

 それとも、迅速すぎて驚いているのかしら? あるいは、ついていけていないとか?

「もう眠っているだろうなと思いつつ、これが手に入ったからなんならいっしょに、と」

 彼は、なぜかモジモジしながら両腕を胸元まで上げた。

 右手には葡萄酒の瓶を、左手には二個のグラスを握っている。

「葡萄酒?」

 いつもだったら、「葡萄酒だなんていい気なものね」とか「酔わせてどうしようというの?」とか言い返すのに、なぜか言葉がでてこなかった。

 もっとも、「酔わせて」云々に関しては、わたしは多少の葡萄酒で酔うようなことはないのだけれど。

 書物ではレディの常套句のようだから、使ってみたいだけ。