そうして始まった滝谷高校の学祭、一日目。
体育館で開会式を終えた全校生徒たちは、各持ち場へと向かい準備を進めている。
たこ焼き屋さん、チョコバナナ屋さん、お化け屋敷にプラネタリウム。
様々な出店がある中で、鞠のクラスもクレープ屋さんとして慌ただしく動いていた。
制服に自前のエプロン姿の鞠が、梨田と共に調理器具の確認や食材準備をしていると。
白ワイシャツに黒のサロンエプロンを巻いた恭平が駆け寄ってきた。
「ジャジャーン! どう? かっこいい?」
「わあ、光島くん似合うね!」
「恭平くん、カフェのスタッフさんみたい!」
「でしょでしょ? 気分上がってきた!」
今回、接客担当である恭平をはじめとした他のクラスメイトが、着替えを終えて教室に集まってきた。
みんな服装を統一させていて、一気に出店の質が向上する。
すると、そこへ何故か客引き担当の新も髪型を整え、接客担当のメンバーと同じ装いで教室に入ってきた。
「⁉︎」
「新もやっと着てくれたか」
「な、なんで?」
「これで校内回った方がもっと客集まりそうじゃん」
艶やかな黒髪がサイドに分けられ額が露わになったせいか、普段よりも大人っぽい雰囲気を纏う新。
まるで高級レストランのホールスタッフのような姿に、鞠の鼓動が強く波打つ。
そんな新を讃えるようにクラスメイトが囲いはじめた時、不意に鞠と視線がぶつかった。
「っ⁉︎」
しかし、気のせいかと思うくらいに新は即座に顔を背け、それ以降鞠の事を見ることはなくなった。
昨日、キスを拒否したことを考えれば当たり前の反応。
そう理解はしているものの、もう以前のように新と接することができない事に胸を痛める。
そんな様子を隣で感じ取っていた梨田も、心配そうに鞠に声をかけた。
「三石さん、大丈夫?」
「あ、うん大丈夫! 準備再開しよう」
「う、うん……」
何事もなかったように明るく振る舞う鞠に、梨田はそれ以上問いかけることはできなかった。