Good day !【書籍化】



【こずえー、今時間あるか?】

帰宅してからもなにも手につかずにぼーっとしていた伊沢は、やり切れずこずえにメッセージを送る。

すると、すぐさま電話がかかってきた。

『どしたー? 伊沢』
「うん、あのさ。恵真からなにか連絡あった?」
『ないよ。伊沢は? あれから恵真と話せたの?』
「いや、まったく。だけど分かった、恵真の気持ちが」
『え?」

こずえはしばらく黙り込む。

伊沢も同じように口を閉ざした。

沈黙が続く中、やがてポツリとこずえが呟く。

『諦めるの? 恵真のこと』
「ああ」
『出来るの? 伊沢」
「出来そうにない。でも、そうするしかない」
『そっか』

しばらく考えてから、こずえは明るく言った。

『よし、聞こうじゃない。なんでも話しな? 伊沢の気持ち、ぶちまけたらいいよ』
「なんだよそれ。なにをぶちまけんの?」
『だから、なんでも! 恵真を諦めようって思った時のこととか』
「えー、傷口に塩塗るな、お前」
『違うよ! 伊沢を楽にしてあげたいからだよ』

え……と、思いがけないこずえの言葉に伊沢は戸惑う。

『こういうことはね、さっさと吐き出した方がいいの。一人で抱えてると、時間が経てば経つほど辛くなるからね。誰かにワーッて話してスッキリした方がいいよ』
「へえー、なんか説得力あるな」
『だって、経験者だもん。それもちょうど、つい先日のこと』

ん?と伊沢は首をかしげる。

「こずえ、失恋したのか? つい最近」
『そうなのよーーー!!』

いきなり大声で叫ばれ、伊沢は思わずスマートフォンから耳を離す。

「おまっ、声デカすぎ!」
『これが冷静に話せますかってーのよ! しかも、あんたんとこの整備士よ? つき合って1年も経ってないのに、そちらさんのおきれいなCAさんとつき合うことにしたんだとさ! まったくもう、どういう社員教育してんのよ、あんたの会社は!!』

ははは!と思わず伊沢は笑う。

『なにがおかしいのよ!?』
「いや、ごめん。豪快だなーと思ってさ」
『は? あんたそれ、失恋したてのか弱い乙女に言うセリフか?』
「だってお前、『そうかそうか、それは辛かったなー』なんて慰めてもらいたくないだろ? ビールでもガーッて飲んで、バーッとしゃべって、バタンッて寝て忘れるタイプだろ?」
『ちょっと!! あんたこそ傷口に塩塗りたくってるじゃないのよ!』

伊沢が更におかしそうに笑うと、こずえはふっと息をついた。