「お前、いつも海外のステイでも勉強してたのか?」
「そうですね。ランニングは必ずして、少し近くを散歩したら基本ホテルに籠ってます」
「なんか逆に身体に悪そうだな」
「え、そうですか?でも今回はこんなにもステイを満喫してしまって…。逆に大丈夫かなって心配になります」
「また出たな、真面目ちゃん」
「えー、なんですか?それ」
「そのまんまだよ。ま、今回は野中さんの発案だしな。のびのび楽しんだらいい。それもパイロットとして大事なことだって言われただろう?」

そうですね、と恵真は頷く。

「ああー、それにしても気持ちいいな」

大和は砂浜にゴロンと寝転んだ。

「下から見る空と太陽もいいもんだな」
「ふふ、そうですね。日本で見る空と同じはずなのに、ちょっと違う気もして不思議です」
「確かに。そう言えばお前ってさ、どうしてパイロットになろうと思ったんだ?」
「え、私ですか?そんなに大したエピソードじゃないですけど」
「うん。別に期待してない」
「うぐっ、じゃあ、まあ」

恵真は思い出しながら話し始める。

「10歳の時に初めて飛行機に乗ったんです。すごくわくわくして、降りてからもボーディングブリッジを渡り終えた所で、ガラス越しにずっと飛行機を眺めてたんです。そしたら急に機首にヒゲが生えたように見えてびっくりして」
「機首にヒゲ?」
「そう。ネコのヒゲみたいに、左右にニョキッて生えてゆらゆら揺れたんです。なんだろうって目を凝らして見たら、パイロットのお二人がスライディングウインドウを開けて私に手を振ってくれていたんです。まさかそんなことしてくれるなんて思ってもみなくて。私、嬉しくて必死で手を振り返しました。その時思ったんです。このかっこいい飛行機は、パイロットが操縦するからかっこよく空を飛べるんだなって。私もいつか、この飛行機をかっこよく飛ばしたい。そして、わくわくしながら飛行機に乗る子ども達に夢を与えられたらいいなって」

そんなところです、と照れたように笑う。

「ふうん。いい話だな」
「え、そうですか?」
「ああ。そのパイロットは、ちゃんと小さなお前のことを見ていたんだな。お前がわくわくして飛行機に見とれているのにちゃんと気づいて手を振った」
「はい。あのお二人のおかげで今の私がいます」
「うん。いい話だ。俺もそんなパイロットでありたいと改めて思ったよ」

そう言って大和は恵真に笑いかける。
恵真も笑顔で頷いた。

「佐倉さんは?どうしてパイロットに?」

すると途端に大和は渋い顔をする。

「言いたくない」
「え?どうしてですか?」
「お前のその話のあとには言えない」
「いいじゃないですか、教えてくださいよ」
「やだね」

そしていきなり身体を起こすと、そのまま立ち上がって走り出した。

「ああー!ずるい!待ってくださいー」

恵真は、再び叫びながら追いかけた。