Good day !【書籍化】

再び箸を持ち食べ始めた恵真が、しばらくして「ねえ」と聞いてくる。

「ん? なんだ?」
「噂になるって、どうしたらいいの?」

伊沢はまた面食らう。

「そんなこと言われても……」

具体的な案など頭になかったが、つき合ってると噂になるには、やはり恋人同士のように振る舞うのが一番だ。

「じゃあさ、俺達つき合ってるテイで話をするんだ。いいな?合わせろよ?」
「う、うん。分かった」

すると伊沢は、やや大きめの声で話し出す。

「そうだ、恵真。次のデート、どこに行きたい?」
「はっ? デート?」

素っ頓狂な声を出す恵真に、伊沢は渋い顔で首を振る。

恵真は慌てて真顔に戻った。

「そ、そうね。きれいな夜景が見えるレストランなんてどうかしら?」

ぶっ!と伊沢が吹き出し、今度は恵真が伊沢にしかめっ面をしてみせる。

「そうだな。そうしよう。いやー、楽しみだなあ、今度のデート」
「そうね。楽しみだわー、うふふ」

大根役者の芝居?いや、下手な教科書の音読?

とにかくなんとも言えない気持ち悪さを感じ、伊沢は恵真に小声で話す。

「ちょっとこれ、背中に虫酸が走るからさ。違う線でやらない?」
「確かに。違う線ってどうやるの?」
「んー、分かりやすく行動で表すとかは?」
「例えば?」

伊沢は少し考えると、食べかけのオムライスをスプーンですくい、「恵真、ほら」とアーンをさせようとする。

恵真は、軽蔑的な眼差しで伊沢に首を振る。

「なんだよ、ちょっとくらい合わせろよ」
「ちょっとくらいじゃないでしょ? アーンなんて絶対やだ!」

ヒソヒソと小声で言い合う。

すると、急に頭上から声がした。

「なんだなんだ? お二人さん。仲良しだなー」

見上げると、野中がトレイを手に笑ってこちらを見ている。

「あ、野中さん! お疲れ様です」

慌てて二人が挨拶すると、すぐうしろから大和も顔を出した。

「佐倉さんもいらしたんですね。お疲れ様です」
「お疲れ」

野中は、ニヤニヤしながら恵真と伊沢を見比べる。

「へえー、なかなかお似合いだな。つき合ってるのか? お前達」

お!と、恵真と伊沢は顔を見合わせた。

「そうなんですよー、実は。な? 恵真」
「はい、そうなんです。ね? 伊沢くん」

これで一気に佐倉さんにも伝えられた!と、二人で小さくガッツポーズをする。

「ほー! いいねえ、若くって。じゃあ俺達はお邪魔だな。佐倉、あっちで食べようぜ」
「はい」

恵真と伊沢は立ち上がり、にこにこしながら機長の二人を見送った。