【改稿版】シンデレラは王子様と離婚することになりました。

結婚式でもキスをしたけれど、あれは儀式上のもの。

ほんの一瞬、軽く触れるだけの挨拶のようなキスだった。

もしかしたら──本番で失敗しないように、あの時のキスはただの練習だったのかもしれない。

そう思えば楽だし、勘違いしてバカを見ることもない。

「……そうじゃなくて、意味のないことはしたくないの」

 視線を逸らし、思わず小さな声になる。

「意味はあるだろ」

 社長は迷いなく言い切った。

そのひと言に、胸の奥がじんわりと温かくなる。

自分で“意味がない”と言ったくせに、安心している自分がいるのが不思議だった。

「社長は……」

口を開きかけて、言葉がつまる。

聞きたいことは山ほどある。

──どうして新婚旅行に行きたいのか、私のことをどう思っているのか。

けれど、もし望んだ答えと違う言葉が返ってきたら……と思うと怖かった。

「結婚したのに、社長呼びはおかしいだろ」

 思わぬ指摘に、話題がそれてちょっとほっとする。

「たしかに。じゃあ、なんて呼べばいい? 大翔? ひろ君? ひーちゃん?」

「急に距離を詰めすぎだろ。……好きに呼んでいいけど」

「じゃあ、ひーちゃんにしよう」