【改稿版】シンデレラは王子様と離婚することになりました。

 額にかかる黒髪は洗練されていて、鋭い二重の瞳は相手を射抜くように冷静で、引き結ばれた口元には一切の隙がない。

 黒のスーツに包まれた引き締まった体躯は、まるで鋼の鎧をまとった騎士のように凛々しく、誰も寄せつけない威圧感を放っていた。

 仕事に関しては徹底的で妥協を許さず、その厳しさに耐えられず異動を願い出た社員もいるほど。

「人のことを言う暇があるなら、自分の仕事をしたらどうだ。この前頼んでおいた資料は?」

 低い声が響いた瞬間、空気が一気に張りつめる。

「……あ、そうだ、経理に確認に行かなきゃ」

「私も、ちょっとコピー頼まれてたんだった」

 同僚たちは視線をそらし、それぞれ慌ただしく席を立っていった。

「佐伯さん……ありがとうございます」

 お礼を言うと、彼は何事もなかったようにパソコンに視線を戻す。

その横顔は冷ややかで、けれど不思議なほど頼もしい。

 現在、佐伯さんの営業事務は私が担当している。

半年でわかったのは──彼は理不尽や意地悪で怒る人ではないということ。

怒られることの方が多いけれど、それは必ず筋が通っていて、自分の努力で改善できる。だから耐えられた。

 それに、家の事情で定時に帰らざるを得ない私にとって、佐伯さんの「やることさえやれば何時に帰ってもいい」という方針は、本当に救いだった。

 ──もっとも、そのやるべきことをきちんと終えられているかといえば……そうでもない。

 胸の奥に申し訳なさを抱えながら、それでも私は帰り支度を続けるしかなかった。