【改稿版】シンデレラは王子様と離婚することになりました。

「高城、先に行って車をエントランスに回しておいてくれ。ちょっと寄りたいところがある」

「……はい」

『行きたいところって?』と訝しむ顔をしたが、なにも聞かずに承諾する。

俺が言いたくないことは無理に聞かない──そういうところも、さすがだと思う。

 高城が部屋を出ていくと、大きなため息が漏れた。

(そこに行ってどうする……)

 自分に問いかけても答えは出ない。

もうすぐ日付が変わる。

オフィスには誰も残っていない。

そこへ行っても、彼女がいるはずはないとわかっているのに。

机に散らばるたくさんの見合い写真を見ても、頭に浮かぶのは彼女の顔ばかり。

気になるなら声をかければいいのに、どう切り出せばいいのかわからない。

 行ってどうする──そう思いながらも、気づけば足は彼女のオフィスへ向かっていた。

エレベーターは二十三階で止まり、まるで引き寄せられるように彼女のデスクへと歩みを進める。

 深夜のオフィスは、シンと静まり返っていた。

彼女のデスクに行くと、ノートパソコンが置かれていて、電源が入ったままになっている。

(不用心だな。なぜ仕舞わない?)

 そう思った瞬間、遠くで足音がした。