【改稿版】シンデレラは王子様と離婚することになりました。

 説明に詰まり、言葉を濁す俺に、祖父は眉をひそめて続けた。

「まあいい。その女性は諦めろ。縁談の話はいくらでも来ている。お前さえ決めれば、先方は喜んで式を挙げるだろう」

「無理です。いくらあなたの頼みでも、それは無理です」

「最後のじじ孝行だろう。結婚なんて、してしまえば愛はあとからついてくる。ばあさんとの縁だって見合いだったのだぞ。大翔の結婚を見届ける前にあの世へ行ったら、きっとばあさんに叱られる。──『大翔を頼む』と遺言を託されたのだからな」

祖父と祖母は、見合いから始まったとは思えないほど仲睦まじい夫婦だった。

その経験から、祖父は「愛は後から育つもの」と信じている。

けれど──同じく見合い婚だった俺の両親の結末を、都合よく忘れてしまっているらしい。

さすがに、そのことを口にする気にはなれなかった。

「いや、だからって急すぎますよ。俺、まだ二十九ですよ?」

「わしは二十歳で結婚した。息子は二十三歳だ。お前は遅すぎる」

「時代が違うでしょう」

「つべこべ言うな。伊龍院家の長男としての義務を果たせ」

 ──結婚が義務って、いつの時代の話だよ。

そう思いながらも、祖父はいったん言い出したら絶対に曲げない人だ。

なにがなんでもやり遂げる。相手がどう思おうとお構いなし。

ここで「無理だ」と押し通せば、祖父が勝手に相手を決めて、結婚の段取りまで組んでしまうだろう。

さすがに相手くらいは自分で選びたい。

いつかは結婚しなければならないと思っていたし……これがきっかけなのかもしれない。

「わかりました。結婚相手を決めてきます」

 祖父は満足げに目を細め、深く頷いた。